2026.5.22

金利が上がる時代に「いくらまでなら借りていい」か?中小企業の借入適正額を3つの軸で判定する方法

「銀行から『もっと借りませんか』と言われた。でも、これ以上借りて大丈夫なのか、いまの借入水準が適正なのか、自分でも分からない。」

これ、あなただけの悩みではありません。低金利の時代が長く続いた結果、多くの中小企業経営者が「いくらまでなら借りていいか」、つまり借入適正額の感覚を失っています。さらに、推移している金利上昇局面の中で、これまでの「金利が安いから借りておこう」という感覚はもう通用しません。

結論から言えば、適正な借入額は「月商」「自己資本」「営業キャッシュフロー(営業CF)」の3つの軸で判定します。ひとつの基準だけを見るのではなく、3つを同時に見ること——これが、金利が上がる時代を生き抜くための借入設計です。

中小企業の借入適正額を3軸で判定する——電卓と通帳で財務を見直す経営者の手元

なぜ「月商の3ヶ月分」という基準だけでは危険なのか?

中小企業向けの本や雑誌でよく見る「借入は月商の3〜6ヶ月分まで」という基準。確かに目安にはなりますが、これだけでは適正金額は判断できません。

理由はシンプルで、月商は「売上」であって「利益」ではないからです。月商1億円・粗利率15%の卸売業と、月商5,000万円・粗利率55%のコンサルティング業では、同じ「月商3ヶ月分」の借入を抱えても、返済余力がまったく違います。

経営の本質は「売上を上げて経費を下げる」ことですが、借入の本質は「営業キャッシュフローの範囲内で、無理なく返せる金額」を見極めることです。売上規模だけを見て借入水準を判断すると、不景気や売上減が来たときに一気に資金繰りが詰まります

「借入適正額」を判定する3つの軸とは?

軸1:月商基準(運転資金の目安)

月商の3〜6ヶ月分が、運転資金として抱えてよい上限の目安。業種で大きく違い、卸売業・建設業のように売掛サイトが長い業種は月商6ヶ月分まで、飲食業・小売業のような現金商売は月商1〜2ヶ月分で十分です。

軸2:自己資本基準(財務体質の目安)

有利子負債が自己資本の1〜2倍以内に収まっているか。これを超えると、銀行員の決算書の見方が変わります。同じ売上・利益でも、自己資本比率20%の会社と40%の会社では、追加融資の通り方も適用金利も違います。

軸3:営業CF基準(返済余力の目安)

有利子負債 ÷ 営業CFで計算する「債務償還年数」。これは銀行員が決算書で必ず見る数字のひとつで、9〜10年以内なら正常、10〜15年は要注意、15年超は危険水域と見られます。

金利が1%上がると、いくら違うのか?

借入1億円、返済期間10年(元金均等返済)のケースで比べてみます。

金利水準 初年度の年間利息 10年間の利息総額
1.0% 約100万円 約550万円
2.0% 約200万円 約1,100万円
3.0% 約300万円 約1,650万円

金利が1%から3%に上がると、10年間の利息総額が約1,100万円増えます。これは中小企業の年間純利益が丸ごと飛ぶ規模の金額です。

「金利が安いから借りておこう」という判断は、低金利時代の発想です。金利が上がる局面では、「借入で生み出すリターン > 金利コスト」を必ず数字で確認してから動く。徹底的に考えてから借りる、という順序が重要になります。

中小企業の借入適正額・3軸判定表

指標 安全圏 要注意 危険水域
月商基準 借入 ÷ 月商 3ヶ月以内 3〜6ヶ月 6ヶ月超
自己資本基準 有利子負債 ÷ 自己資本 1倍以内 1〜2倍 2倍超
営業CF基準 債務償還年数 10年以内 10〜15年 15年超

3軸のうち1つでも「危険水域」に入っていたら、これ以上の追加借入は要再考です。「本当の手残り」が借入返済に消えていく状態に陥っているサインだからです。

本当の手残り = 売上 − 変動費 − 固定費 − 税金 − 借入返済元本

決算書の「当期純利益」と通帳残高がズレるのは、ここに「借入返済元本」が乗っているからです。利益は出ているのにお金が残らない会社の多くは、この式の最後の項目が大きくなりすぎています。

専門家に相談すべきタイミングはいつか?

Q:銀行から「もっと借りませんか」と言われたら、借りるべき?
A:3軸で判定して、すべて「安全圏」なら検討の余地があります。ただし「借りるかどうか」より「借りて何にいくらリターンを出すか」を先に決めてください。投資の中身が決まっていない借入は、固定費を増やすだけです。

Q:いまの金利水準で、繰上返済はしたほうがいい?
A:手元キャッシュが「月商3ヶ月分」を下回っているなら、繰上返済より現金確保を優先してください。低金利の借入を急いで返すより、不測の事態に備えるほうが、確率的に正しい判断になります。

Q:金利上昇局面で、変動金利と固定金利、どちらを選ぶべき?
A:5年以上の長期借入なら、固定金利への切り替えを一度試算する価値があります。試算なしで「変動のほうが安いから」と続けるのは、金利上昇リスクを無視した判断です。


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