「同じ売上規模、同じ業種で決算書を出しているのに、隣のA社は追加融資が通って、うちは『今期は様子を見ましょう』と言われる——。」
これ、中小企業の経営者の方からよく聞く悩みです。決して珍しい話ではありません。
実は銀行員は、決算書を社長が思っているような順番では見ていません。売上→経費→利益、という素直な順番で読むのではなく、彼らの頭の中には「最初に見る5つの数字」があり、その並びはほぼ業界共通です。
この5つを整えるだけで、信用格付けは変わります。逆に言えば、ここを放置している限り、何度面談を重ねても評価は動きません。
今回は、銀行員が決算書のどこを、どの順番で見ているのか——そして経営者が手を入れるべき優先順位を、実例とともに解説します。

目次
なぜ銀行員は決算書を「数字の順番」で読まないのか?
決算書は売上から始まりますが、銀行員の関心はそこから始まりません。彼らが知りたいのは、たった一つ。
「貸したお金は、本当に返ってくるのか」
この問いに答えるために、彼らは決算書を「逆」から読みます。先に貸借対照表(B/S)の安全性を確認し、次にキャッシュフローの実態を見て、最後に損益計算書(P/L)の収益力で裏取りをする——という順番です。
ある支援先の機械加工会社(売上3.2億円)は、毎期しっかり黒字を出していたにも関わらず、メインバンクから追加融資を渋られていました。理由は単純で、自己資本比率が9%しかなかったからです。利益は出ているのに、過去の役員貸付や不採算案件が純資産を削っていたのです。
「黒字=信用される」ではありません。B/S→CF→P/Lの順で読まれることを理解するだけで、打ち手の優先順位が変わります。
「自己資本比率」と「債務償還年数」、銀行員はどちらを先に見る?
銀行員が最初に確認する2つの数字が、自己資本比率と債務償還年数です。
1. 自己資本比率(純資産÷総資産)
中小企業の業界平均は約30%。これが20%を切ると注意、10%以下は「資本欠損リスク」と見なされます。
| 自己資本比率 | 銀行の見方 |
|---|---|
| 40%以上 | 優良企業ゾーン。プロパー融資が通りやすい |
| 30〜40% | 標準。条件次第で評価される |
| 20〜30% | 注意ゾーン。保証協会付き中心になる |
| 20%未満 | 警戒ゾーン。新規融資が止まりやすい |
2. 債務償還年数(有利子負債÷簡易キャッシュフロー)
「今のペースで稼いだら、何年で借金を返せるか」を表す数字。簡易CFは「経常利益+減価償却費」で計算します。
10年が一つの目安で、これを超えると銀行は「過剰債務」と判断します。ある建設業の会社では、債務償還年数が15年から8年に縮まった瞬間、3,000万円のプロパー融資が一気に決まりました。決算書の見え方を整える順序が、結果を変えたのです。
この2つは、決算書を提出する前に必ず計算しておくべき数字です。
営業キャッシュフローが「数字以上の意味」を持つのはなぜ?
3番目に見られるのが営業キャッシュフロー(営業CF)。これは「本業で現金をいくら稼いだか」を示します。
ここで多くの経営者が誤解しているのは、「黒字なのに営業CFがマイナス」という現象です。利益は出ているのに、売掛金や在庫が膨らんで現金が手元に残っていない状態。これは銀行から見れば最も警戒される財務パターンの一つです。
本当の手残り=営業CF+投資CF(必要最小限の更新投資後)
利益がいくら出ていても、現金として残っていなければ返済原資にはなりません。銀行員はP/Lの利益額より、営業CFの方が「ウソをつきにくい数字」だと知っています。
ある飲食業の支援先では、営業利益は800万円出ていたのに、営業CFは▲300万円でした。原因は売掛回収の長期化と仕入の前払い。回収サイトの見直しと在庫水準の最適化で、半年後には営業CFが+650万円に転じ、銀行の評価が一段階上がりました。
「利益とキャッシュは別物」という事実を、社長と銀行員の両方が同じ目線で見られるかどうか。これが交渉の出発点になります。
「売上高経常利益率」「借入金月商倍率」を整えると何が変わる?
最後に確認される2つが、収益力と借入水準です。
4. 売上高経常利益率(経常利益÷売上)
中小企業の業界平均は3〜4%。5%以上を継続的に出している会社は、銀行内部で「収益力ありの優良先」に区分されます。逆に1%を切ると「収益基盤が脆弱」と判断され、設備投資資金などの長期融資が通りにくくなります。
5. 借入金月商倍率(有利子負債÷月商)
「月商の何ヶ月分の借金があるか」を示す指標。3ヶ月以内なら適正、6ヶ月を超えると過剰借入のサインです。
この2つは、改善するのに時間はかかりますが、先の3つ(自己資本比率・債務償還年数・営業CF)と連動して動くため、3つを整えれば自然に良化していく構造です。だからこそ、打ち手の順序が大事になります。感覚で「とにかく利益を上げる」より、確率の高いところから先に整える方が、はるかに早く銀行評価が変わります。
銀行員が見る5つの数字 まとめ
| 順番 | 指標 | 計算式 | 目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | 自己資本比率 | 純資産÷総資産 | 30%以上 |
| 2 | 債務償還年数 | 有利子負債÷簡易CF | 10年以内 |
| 3 | 営業CF | 営業活動による現金収支 | 継続プラス |
| 4 | 売上高経常利益率 | 経常利益÷売上 | 3%以上 |
| 5 | 借入金月商倍率 | 有利子負債÷月商 | 3〜6ヶ月以内 |
ポイントは、「上から順に整える」こと。下の指標を先にいじっても、銀行員の評価は動きません。順序を間違えると、努力の量に対して結果が出にくくなります。
専門家に相談すべきタイミングはいつ?
Q. 自社で決算書の数字を改善できそうですが、それでも相談すべきですか?
A. 銀行員が「最初に見る5つ」を意識した決算書づくりは、税理士の視点とは別物です。税理士の主たる仕事は「正確に作ること」であり、「銀行に評価されるように整えること」は本来の業務範囲外。第三者の財務目線が入ると、同じ決算でも見え方が変わります。
Q. リスケ中ですが、それでも数字を整える意味はありますか?
A. むしろリスケ中こそ重要です。リスケから正常返済に戻れた会社は、ほぼ例外なくこの5つの数字を計画的に動かしています。逆に「売上を上げれば戻れる」と思って動いた会社の多くは、長期化します。
Q. 銀行員と話すとき、決算書の何を最初に見せれば良いですか?
A. 「自己資本比率」「債務償還年数」「営業CF」の3つを表紙にまとめた1枚の数字シートを用意するのがおすすめです。銀行員が探さなくても見える状態にしておくと、面談の質が変わります。
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