2026.5.1

銀行員が決算書で最初に見る5つの数字——「信用される会社」と「身構えられる会社」の差はどこか

「同じ売上規模、同じ業種で決算書を出しているのに、隣のA社は追加融資が通って、うちは『今期は様子を見ましょう』と言われる——。」

これ、中小企業の経営者の方からよく聞く悩みです。決して珍しい話ではありません。

実は銀行員は、決算書を社長が思っているような順番では見ていません。売上→経費→利益、という素直な順番で読むのではなく、彼らの頭の中には「最初に見る5つの数字」があり、その並びはほぼ業界共通です。

この5つを整えるだけで、信用格付けは変わります。逆に言えば、ここを放置している限り、何度面談を重ねても評価は動きません。

今回は、銀行員が決算書のどこを、どの順番で見ているのか——そして経営者が手を入れるべき優先順位を、実例とともに解説します。


決算書にペンで記入する手元

なぜ銀行員は決算書を「数字の順番」で読まないのか?

決算書は売上から始まりますが、銀行員の関心はそこから始まりません。彼らが知りたいのは、たった一つ。

「貸したお金は、本当に返ってくるのか」

この問いに答えるために、彼らは決算書を「逆」から読みます。先に貸借対照表(B/S)の安全性を確認し、次にキャッシュフローの実態を見て、最後に損益計算書(P/L)の収益力で裏取りをする——という順番です。

ある支援先の機械加工会社(売上3.2億円)は、毎期しっかり黒字を出していたにも関わらず、メインバンクから追加融資を渋られていました。理由は単純で、自己資本比率が9%しかなかったからです。利益は出ているのに、過去の役員貸付や不採算案件が純資産を削っていたのです。

「黒字=信用される」ではありません。B/S→CF→P/Lの順で読まれることを理解するだけで、打ち手の優先順位が変わります。


「自己資本比率」と「債務償還年数」、銀行員はどちらを先に見る?

銀行員が最初に確認する2つの数字が、自己資本比率と債務償還年数です。

1. 自己資本比率(純資産÷総資産)

中小企業の業界平均は約30%。これが20%を切ると注意、10%以下は「資本欠損リスク」と見なされます。

自己資本比率 銀行の見方
40%以上 優良企業ゾーン。プロパー融資が通りやすい
30〜40% 標準。条件次第で評価される
20〜30% 注意ゾーン。保証協会付き中心になる
20%未満 警戒ゾーン。新規融資が止まりやすい

2. 債務償還年数(有利子負債÷簡易キャッシュフロー)

「今のペースで稼いだら、何年で借金を返せるか」を表す数字。簡易CFは「経常利益+減価償却費」で計算します。

10年が一つの目安で、これを超えると銀行は「過剰債務」と判断します。ある建設業の会社では、債務償還年数が15年から8年に縮まった瞬間、3,000万円のプロパー融資が一気に決まりました。決算書の見え方を整える順序が、結果を変えたのです。

この2つは、決算書を提出する前に必ず計算しておくべき数字です。


営業キャッシュフローが「数字以上の意味」を持つのはなぜ?

3番目に見られるのが営業キャッシュフロー(営業CF)。これは「本業で現金をいくら稼いだか」を示します。

ここで多くの経営者が誤解しているのは、「黒字なのに営業CFがマイナス」という現象です。利益は出ているのに、売掛金や在庫が膨らんで現金が手元に残っていない状態。これは銀行から見れば最も警戒される財務パターンの一つです。

本当の手残り=営業CF+投資CF(必要最小限の更新投資後)

利益がいくら出ていても、現金として残っていなければ返済原資にはなりません。銀行員はP/Lの利益額より、営業CFの方が「ウソをつきにくい数字」だと知っています。

ある飲食業の支援先では、営業利益は800万円出ていたのに、営業CFは▲300万円でした。原因は売掛回収の長期化と仕入の前払い。回収サイトの見直しと在庫水準の最適化で、半年後には営業CFが+650万円に転じ、銀行の評価が一段階上がりました。

「利益とキャッシュは別物」という事実を、社長と銀行員の両方が同じ目線で見られるかどうか。これが交渉の出発点になります。


「売上高経常利益率」「借入金月商倍率」を整えると何が変わる?

最後に確認される2つが、収益力と借入水準です。

4. 売上高経常利益率(経常利益÷売上)

中小企業の業界平均は3〜4%。5%以上を継続的に出している会社は、銀行内部で「収益力ありの優良先」に区分されます。逆に1%を切ると「収益基盤が脆弱」と判断され、設備投資資金などの長期融資が通りにくくなります。

5. 借入金月商倍率(有利子負債÷月商)

「月商の何ヶ月分の借金があるか」を示す指標。3ヶ月以内なら適正、6ヶ月を超えると過剰借入のサインです。

この2つは、改善するのに時間はかかりますが、先の3つ(自己資本比率・債務償還年数・営業CF)と連動して動くため、3つを整えれば自然に良化していく構造です。だからこそ、打ち手の順序が大事になります。感覚で「とにかく利益を上げる」より、確率の高いところから先に整える方が、はるかに早く銀行評価が変わります。


銀行員が見る5つの数字 まとめ

順番 指標 計算式 目安
1 自己資本比率 純資産÷総資産 30%以上
2 債務償還年数 有利子負債÷簡易CF 10年以内
3 営業CF 営業活動による現金収支 継続プラス
4 売上高経常利益率 経常利益÷売上 3%以上
5 借入金月商倍率 有利子負債÷月商 3〜6ヶ月以内

ポイントは、「上から順に整える」こと。下の指標を先にいじっても、銀行員の評価は動きません。順序を間違えると、努力の量に対して結果が出にくくなります。


専門家に相談すべきタイミングはいつ?

Q. 自社で決算書の数字を改善できそうですが、それでも相談すべきですか?

A. 銀行員が「最初に見る5つ」を意識した決算書づくりは、税理士の視点とは別物です。税理士の主たる仕事は「正確に作ること」であり、「銀行に評価されるように整えること」は本来の業務範囲外。第三者の財務目線が入ると、同じ決算でも見え方が変わります。

Q. リスケ中ですが、それでも数字を整える意味はありますか?

A. むしろリスケ中こそ重要です。リスケから正常返済に戻れた会社は、ほぼ例外なくこの5つの数字を計画的に動かしています。逆に「売上を上げれば戻れる」と思って動いた会社の多くは、長期化します。

Q. 銀行員と話すとき、決算書の何を最初に見せれば良いですか?

A. 「自己資本比率」「債務償還年数」「営業CF」の3つを表紙にまとめた1枚の数字シートを用意するのがおすすめです。銀行員が探さなくても見える状態にしておくと、面談の質が変わります。


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