「繁忙期はそこそこ埋まる。でも平日や閑散期はガラガラで、年間を通して見ると全然利益が出ていない……。」 これは、旅館や民宿を経営する多くのオーナーが抱えている悩みです。あなただけではありません。 実は宿泊業界では、繁忙期の売上だけでは閑散期の固定費を賄えず、年間トータルで赤字になるケースが非常に多いのです。その原因のほとんどは「稼働率の低さ」と「料金設定の甘さ」にあります。しかし、本当に見るべき数字は稼働率だけではありません。重要なのは、最終的に手元にいくら残るか——つまり「本当の手残り」です。 今回は、旅館・民宿の経営者が今日から実践できる「手残りを最大化する3つの戦略」を、具体的な数字と事例を交えてお伝えします。
目次
なぜ旅館・民宿は「繁忙期に稼いでも年間で利益が出ない」のか?

旅館・民宿の年間平均稼働率は約40〜50%と言われています。ホテルの60〜70%と比べると大きく下回ります。 さらに問題なのは、稼働率だけに注目してしまうことです。宿泊業の経費構造を分解すると、次のようになります。
| 項目 | 目安比率 |
|---|---|
| 人件費(仲居・フロント・調理等) | 30〜40% |
| 食材費(朝夕食提供の場合) | 15〜20% |
| 水道光熱費 | 8〜12% |
| 家賃・建物維持費 | 10〜15% |
| OTA手数料・広告費 | 5〜10% |
| その他経費(アメニティ・リネン等) | 5〜8% |
| 手残り(営業利益) | 3〜8% |
つまり、年間売上が3,000万円あっても、手残りは90万〜240万円程度にしかならない計算です。さらに、建物の修繕費や設備更新を考えると、実質的に手元に残るお金はごくわずかです。 本当の手残り = 売上 −(人件費 + 食材費 + 固定費 + 借入返済 + 修繕積立) ここで重要なのは、これは「会計上の利益」ではなく、あなたの「通帳に最終的に残るお金」の話だということです。 いくら帳簿で黒字が出ていても、借入の返済や将来の備えで現金がなくなれば、経営は行き詰まります。この「本当の手残り」を意識しているかどうかが、持続可能な宿泊経営とそうでない経営の決定的な差になります。
改善策①:「RevPAR」を経営指標にしているか?
多くの旅館オーナーは「稼働率」や「客室単価」のどちらか一方だけを見がちです。しかし、宿泊業の経営で最も重要な指標は「RevPAR(レヴパー)」です。 RevPARとは、Revenue Per Available Room(販売可能客室あたりの売上)の略で、稼働率と客室単価を掛け合わせた総合指標です。 RevPAR = 客室稼働率 × 平均客室単価(ADR) 例えば、次の2つの旅館を比べてみましょう。
| 旅館 | 客室数 | 稼働率 | ADR(平均客室単価) | RevPAR |
|---|---|---|---|---|
| A旅館 | 10室 | 80% | 12,000円 | 9,600円 |
| B旅館 | 10室 | 50% | 20,000円 | 10,000円 |
A旅館は稼働率が高いですが、RevPARではB旅館の方が上回ります。稼働率を追い求めて安売りするよりも、適正価格で利益を確保する方が手残りは増えるのです。 経営の本質は、売上を上げて経費を下げること。稼働率と単価のバランスを数字で管理し、RevPARを最大化する料金設定を行うことが重要です。 実際に、8室の温泉旅館で繁忙期・平日・閑散期の3段階料金を導入し、OTA(旅行予約サイト)の料金を需要に応じて週次で調整したところ、年間RevPARが7,200円から9,800円に向上。年間の手残りが約180万円増加しました。
Q&A:料金を上げると予約が減りませんか?
Q. 料金を上げると稼働率が下がって逆効果になりませんか? A. 一律の値上げではなく、需要に応じた「ダイナミックプライシング」がポイントです。繁忙期は強気の料金設定、閑散期は早期予約割引やプラン付きで集客するなど、メリハリをつけることで稼働率を維持しながら単価を改善できます。
改善策②:「閑散期対策」を仕組み化しているか?
旅館・民宿の経営を圧迫する最大の要因は、閑散期の固定費負担です。お客様が来なくても、人件費・水道光熱費・建物維持費は毎月発生します。 閑散期の稼働率が30%を下回ると、固定費を賄えず月次で赤字になるケースがほとんどです。この赤字を繁忙期の利益で補填する——これが多くの旅館の実態です。 ある旅館(10室・月間固定費180万円)では、閑散期の稼働率が25%、繁忙期が85%でした。年間を通すと稼働率48%で、ギリギリの経営状態でした。そこで、閑散期に以下の施策を実施しました。
- ワーケーションプランの導入(平日連泊割引+Wi-Fi環境整備)
- 地元企業向けの研修・合宿プランの営業
- 日帰り温泉+食事プランで客室以外の収益化
これらはすべて、既存の設備を活用した施策です。新たな投資をほぼかけずに、閑散期の稼働率を25%から42%に引き上げることに成功。年間の手残りが約150万円改善しました。
Q&A:閑散期対策で最も効果的なのは?
Q. 閑散期の売上を増やすために最初にやるべきことは何ですか? A. まずは「閑散期に来てほしいターゲット」を明確にすることです。個人旅行者だけでなく、ビジネス利用(研修・合宿)、ワーケーション、地元利用(日帰り)など、平日に需要がある層に向けたプランを作ることが第一歩です。重要なのは、確率的に最もリターンが大きいターゲットから着手することです。
【重要】旅館業は「設備」が命。修繕積立は「戦略的コスト」
宿泊業は典型的な設備産業です。今は利益が出ているように見えても、10年後には必ず外壁、ボイラー、空調などの大規模修繕がやってきます。その時、一気に数千万単位のキャッシュが飛んで経営を圧迫するケースが後を絶ちません。
修繕費用を「利益が出たら考えるもの」ではなく、あらかじめ「毎月の戦略的コスト」として計上しておくこと。 これが、数十年続く持続可能な経営の基盤となります。
改善策③:「OTA依存度」を下げているか?
3つ目の改善策は、OTA(楽天トラベル・じゃらん等の旅行予約サイト)への依存度を見直すことです。 OTAは集客力が高い一方、手数料が8〜15%かかります。仮に手数料率12%、OTA経由の予約が80%だとすると、売上の約10%がOTA手数料として消えている計算です。
| 予約経路 | 構成比(依存型) | 手数料率 | 手数料額(月商300万円) |
|---|---|---|---|
| OTA | 80% | 12% | 28.8万円 |
| 自社HP | 10% | 0% | 0円 |
| 電話・リピーター | 10% | 0% | 0円 |
| 合計手数料 | 28.8万円 |
月28.8万円、年間約345万円の手数料は、そのまま手残りを圧迫しています。 OTA経由で初めて来たお客様を「次回は自社HPから直接予約」に誘導する仕組みを作ることで、この手数料を削減できます。具体的には、チェックアウト時に自社HP限定の特典(次回500円引き等)を案内し、LINE登録を促す方法が効果的です。 実際に、OTA依存度85%だった民宿が、リピーター向けのLINE会員制度を導入したところ、2年でOTA比率が55%に低下。年間のOTA手数料が約120万円削減され、そのまま手残りの改善につながりました。
Q&A:OTAをやめるべきですか?
Q. OTAは使わない方がいいのですか? A. OTAをやめる必要はありません。OTAは新規集客のチャネルとして非常に有効です。重要なのは、OTAで獲得したお客様を「自社リピーター」に転換する仕組みを持つことです。OTAは集客の入口、自社HPはリピートの受け皿と考え、両方を活用するのがベストです。
まとめ:旅館・民宿の「手残り」を最大化する3つの戦略
| 戦略 | ポイント | 期待効果 |
|---|---|---|
| ①RevPARを経営指標にする | 稼働率×単価の総合管理でダイナミックプライシング | RevPAR20〜30%向上 |
| ②閑散期対策を仕組み化する | ワーケーション・研修・日帰りなど新たな需要層を開拓 | 閑散期稼働率15〜20pt改善 |
| ③OTA依存度を下げる | リピーターを自社HP予約に転換し手数料を削減 | 年間100〜150万円のコスト削減 |
数字に強い経営者ほど、感覚ではなくデータに基づいた意思決定をしています。まずは自館の「本当の手残り」がいくらなのか、今月の数字から確認してみてください。
Q. 専門家に相談するタイミングはいつがベスト? A.「繁忙期は良いのに年間で見ると厳しい」と感じた時点で、早めに相談することをおすすめします。資金繰りが本格的に悪化してからでは選択肢が限られてしまいます。まずは自館の経営状態を客観的に把握するところから始めましょう。
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